2023年9月2日。
前日には峠の手前で野営をしていて、この日は朝一番で峠を越える計画でした。
この辺りは氷河地形が連なるエリアなので、「峠を越える」というのは「今いるカールから抜け出して反対側のカールに出る」ということを意味します。
そしてカール地形というのは、ヘリの部分を超えて抜け出すときが一番傾斜がきついのです。
急斜面を覆う残雪。頭をよぎる滑落の二文字。峠を越えることはできるのか??
Shepherd Pass Trail
そもそもShepherd Pass Trailが険しいことは、下調べの段階である程度予想がついていました。
トレイルヘッド(登山口)からパス(峠)まで、10mi(16km)の距離で5700ft(1700m)の標高差があります。
パスの斜面は北側を向いているので、雪が残りがちです。
なんでそんなルートを選んだかというと、パーミットの空きがあったからです。
不人気なのですね。理由は推して知るべし、といったところでしょう。
なぜチェーンスパイクを持っていなかったか
パスを目指して登っていくと、だんだんと草木がなくなって岩だらけの景色が広がるようになります。
周囲にはお椀のように岩壁が取り囲み、崩れた岩がガレ場を形成しています。これを超えないと先に進めないわけです。
標高が上がるにつれ、残雪が目に付くようになりました。
この時点で、チェーンスパイクを持っていなかった僕は、嫌な予感を感じます。
なぜ、残雪が予想されるのにチェーンスパイクを持っていなかったのか?
それは、日本出国時に遡ります。
空港の手荷物検査で引っかかって、没収されてしまったのです。そして再調達せずに入山してしまいました。
スパイクといってもアイゼンじゃないから歯は小さいし、尖ってもいないのに。。
あとで知人にこの話をしたところ、LCCだとそういうことがあるらしいです。ZIPエアライン、許すまじ。
JMTの本ルート上では結局チェーンスパイクを使うことはなかったのですが、やはり入山前に再調達しておくべきでした。
これは越えられない。。
ついにShepherd Passにたどり着いたとき、トレイルが雪の下に消えてしまいました。
迂回しようにも傾斜がきつく、登れそうにありません。
スパイクなしにこの雪の斜面を歩くのはかなりの無謀。足を滑らしたら下の岩にぶつかるまで止まらないでしょう。
近くには足を滑らせてしまったのか、鹿の白骨死体が横たわっており、なにやら不吉なメッセージを発しているような気がします。
しばらく辺りをうろうろして、ルートを探してみましたが、やはり登れそうにないのであきらめて引き返すことにしました。
1日がかりでここまで来たのになぁ。これを超えればようやくJMTのルートに出れるのに。悔しいです。
しかし事故を起こすわけにはいきません。
作戦はつねに「いのちだいじに」です。